日時:7月25日(火)13:00〜15:00 場所:東大生研Dw-601 講師:海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター仮想生体研究グループ    小林英城先生 タイトル:人工遺伝子ネットワークの構築プロセス アブストラクト:  近年、Synthetic biology が提唱され、Toggle switch1)やRepressilator2)等 の遺伝子モジュールやそれを利用した人工遺伝子ネットワーク3)およびその遺伝 子発現の解析が多数報告されている4)。多くの場合遺伝子発現について、モデリ ングとシミュレーションそして実験結果が記載されており、これら3つの要素と その連係は、今後のSynthetic biologyの発展に必須と考えられている。しかし ながらモデリング・シミュレーションと実際の実験結果の間には、まだ隔たりが ある事も事実である。実際の細胞が非常に複雑で、「モデルが現実の細胞を正確 に反映していない」とは、もっともな意見であるが、「モデル」をより現実の細 胞に近づけるためには、モデリングと実験結果との相違を検証し、修正して行く 事が大切である。一方実験においても、提唱している「モデル」を正確に理解 し、実験系を組み立てる事が重要である。生物の生命活動には未だ不明な点が多 いが、「モデル」が成立すると予測できる遺伝子やプラスミド、菌株、培養条件 等、「フィールド」を準備することが必要である。  遺伝子Toggle switch 等の遺伝子モジュールが安定に機能するためにはフィー ルドを整える必要がある。第一に細胞に外来遺伝子を導入するため、ホスト・ベ クター系が成立している生物を利用する事が必須である。したがって、多種のプ ラスミドが利用可能な大腸菌は最適である。その上で、レプレッサー蛋白質等の 制御遺伝子がゲノム遺伝子に存在していない事、生育が定常期に達していない 事、共通の転写因子を含まない事などが挙げられる。また、安定した実験結果を 得るために、培養条件の検討等も必要である。多くの場合、「モデル」からのシ ミュレーション実験では「モデル」のみから結果が出されているが、実際の実験 においては「モデル」と通常の生命活動による遺伝子発現が干渉した結果が観察 される。人工遺伝子ネットワークの構築においても、ホストが元来備えている遺 伝子ネットワークと干渉しない事が重要である。必要ならば、ホストも変異処理 等にて改変し、「モデル」以外からの干渉を極力排除する。  本セミナーでは、遺伝子Toggle switchを用いた人工遺伝子ネットワークを構 築する際の過程・プラスミドや菌株の構築、問題点とその解決について、実験者 の立場から述べる。 1. Elowitz, M. B. and Leibler, S. Nature 403, 335-338 (2000). 2. Gardner, T. S., Cantor, C. R. & Collins, J. J. Nature 403, 339-342 (2000). 3. Kobayashi, H. et al. Proc Natl Acad Sci USA 101, 8414-8419 (2004). 4. Sprinzak, D. & Elowitz, M. B. Nature 438, 443-448 (2005).