日時:9月20日(火)17:00〜19:00 場所:東大生産技術研究所Dw601号室(駒場リサーチキャンパス内) 講師:北澤 茂先生、順天堂大学 医学部 生理学第一講座 教授 (http://square.umin.ac.jp/physio-1/members/kitazawa.html) Title 「小脳における運動の最適化 ―ランダムウォーク仮説―」 Abstract 手を伸ばして物をつかむという到達運動は運動全体での力の変化が小さく滑らか なるようにほぼ最適化されている1,2。小脳が障害されると、運動の滑らかさは 失われるので運動の最適化に小脳が重要な役割を果たしていることは確かである が、具体的なメカニズムは手つかずの問題として残されてきた。近年の理論的研 究3で、運動制御信号に内在するノイズの影響を考慮に入れると、運動終点の誤 差分散を小さくすることによって運動の滑らかさが得られることが示された。一 方、運動学習の教師と言われてきた小脳の登上線維信号が確かに運動終点の誤差 を表現していることも定量的に示された4,5。それらの成果を踏まえて我々は、 登上線維が伝える終点誤差の情報が、ランダムウォークに似た過程によって終点 の誤差分散を減少させ滑らかな制御を実現するという仮説を提案し、ランダム ウォーク仮説と名づけた6。シミュレーションでは到達運動の特徴をある程度再 現することができた。今後、この作業仮説を手がかりとして、脳における運動最 適化の仕組みを解明したい。 1. Flash, T., Hogan N. 1985. J. Neurosci., 5, 1688-1703. 2. Uno, Y., Kawato, M., Suzuki, R. 1989. Biol. Cybern. 61, 89-101. 3. Harris, C.M., Wolpert, D.M. 1998. Nature, 394, 780-784. 4. Kitazawa, S., Kimura, T., Yin, P.B. 1998. Nature, 392, 494-497. 5. Kitazawa, S., Wolpert, D.M. 2005. Trends Neurosci (in press) 6. Kitazawa, S. 2002. Neurosci. Res., 43, 289-294.