日時 :5月23日(月)16:00- 場所 :東京大学生産技術研究所 C棟605 講師 :内田 淳史先生(拓殖大学工学部情報エレクトロニクス学科専任講師) タイトル: レーザにおけるカオス同期とその情報通信応用 アブストラクト:  本講演では非線形システムの一例としてレーザに焦点を絞り、そのカオス同期現象 および工学的応用について、講演者が近年従事してきた研究を紹介する。特に、前半 では基礎的研究[(1)と(2)]、後半では応用的研究[(3)と(4)]に分割して講演を行う。 (1) レーザにおけるカオス同期現象  レーザ特有の物理に基づくカオス同期現象について、マイクロチップ固体レーザを 代表として解説する。一方向光結合したレーザ間において完全カオス同期が観測可能 であり、その条件について述べる。さらにレーザ間における一般化同期 (Generalized synchronization)現象についても述べ、その達成条件について詳細に 解説する。 (2) 非線形システムにおける一貫性(consistency)  多くの非線形システムは、繰り返し入力された信号(カオス、ノイズを問わず)に 対して一貫性(consistency)のある振る舞いを示す。一貫性とは、初期状態の異なる 非線形システムが、ある信号により繰り返し駆動される場合に得られる非線形システ ムの出力の再現性のことである。非線形システムにおける一貫性は生体システムにお ける情報伝達や流体中のパターン形成などに本質的な役割を示す。本講演ではカオス またはノイズ信号により駆動されたレーザを用いて、実験および数値計算にて一貫性 を定量的に測定し、その条件について詳細に述べる。一貫性とは一般化カオス同期の 拡張概念であり、カオス同期よりもさらに普遍性の高い概念だと考えられる。 (3) レーザカオス同期を利用した光秘匿通信応用  レーザカオスを用いた光秘匿通信応用は近年世界中で盛んに研究されており、ヨー ロッパを中心とした研究プロジェクトも発足している。本講演では、レーザカオスを 用いた秘匿通信応用の現状と将来について概説する。カオス同期を利用した符号化・ 復号化方式について詳細に説明し、さらに現在提案されているカオス通信方式のセ キュリティについても定量的評価を行う。 (4) レーザカオスを用いた情報理論的に安全な暗号鍵発生  これまでに提案されているカオス秘匿通信方式はいずれもカオス同期を利用する方 式であるが、カオス同期の安定性とセキュリティーには常にトレードオフの関係があ るという本質的欠点を有する。そこで本講演では、カオス同期を利用しない新たな秘 匿通信方式を提案し、特に情報理論的セキュリティに基づくカオス暗号鍵発生方式を 提案する。情報理論的セキュリティとは盗聴者の情報が限定されているという前提に 基づき確率論で暗号鍵の安全性を保障するセキュリティであり、従来の計算量複雑性 に基づくセキュリティとは本質的に異なる新たな概念である。本講演では、GHzオー ダーで振動する半導体レーザカオスをハードウェア的超高速乱数発生器として利用 し、情報理論的セキュリティに基づく暗号鍵発生方式を実験的に実証したので報告す る。